目の病気

糖尿病網膜症について

ポイント

  • 糖尿病により眼底出血を起こし、重篤な視力障害が現われます。
  • 現在10人に1人が糖尿病であり、失明することが最も多い疾患です。
  • 症状は、初期は自覚症状に乏しく、視力低下になって初めて眼科受診された場合、症状が進行しており、手遅れになることがあります。
  • 血糖コントロールが重要で、眼科も定期的な眼底検査が必要になります。

人は、食事によって摂った糖分を、すい臓が産生するインシュリンにより、血液内から体内の細胞に取り込み、細胞に栄養を与えています。しかし、老化や、食事の摂り過ぎ、運動不足、遺伝などにより、すい臓が弱って、インシュリンが不足したり、効果が弱くなることがあります。糖尿病は、このインシュリンの効果が低下することにより、血液内の糖分を体内の細胞に取り込むことが上手にできなくなり、血管内に糖分(血糖)が蓄積され、血管が障害される病気です。このような状態が長い間持続することにより、血管が詰まり、様々な体の障害を引き起こし、眼科においては、眼底出血により、カメラに例えればフイルムに当たる網膜が障害され、例え高性能のカメラであってもフイルムが傷んでしまえば綺麗な写真が撮れないのと同じようように、重篤な視力障害をひきおこすことがあります。

 糖尿病は、日本に約1300万人つまり、10人に1人が糖尿病にかかっていると言われているほど多い病気で、その患者数は増加しています。主症状は、口渇、多飲、多尿等ありますが、自覚症状に乏しいため、定期検診を受けられていない人は、知らない内に病気が進行している可能性があります。糖尿病の合併症は、重篤なものが多く、通常血糖コントロールが悪い状態が10年以上続くと発症するといわれており、一度病気が現れると続いて様々な合併症が現れることが多い疾患です。網膜症も、重症になって、初めて視力障害を起こすため、「よく見えているから大丈夫。」と言った自己判断は危険を伴います。糖尿病による失明は最も多く、年間約3000人が重篤な視力障害に陥っています。

 治療方針としては、最初に血糖コントロールをよくして、合併症の防止および発症を遅らせることが大事です。網膜症が進行してしまった人には、網膜を焼くレーザー光凝固や目の中を掃除する硝子体手術、最近では特殊な薬(抗VEGF抗体)の硝子体注射などがありますが、手術をしても病気前と同じくらいに見えるようになるのはなかなか難しく、やはり血糖コントロールをして合併症を発症させないことが重要です。

 糖尿病の血糖コントロールの指標によく用いられるのに血糖値、HbA1c(グリコヘモグロビン)というものがあります。血糖値は、その時の一時的な値で、変動が大きく正確性に欠けます。それに比べてHbA1cは、過去1~2ヶ月の成績を表し、正確です。両者の関係は学校の成績に例えると、血糖値は、1回のテスト結果を表し、HbA1cは、学期末の成績通知表の関係にあてはまり、成績を評価するには、通知表のほうが1回のテスト結果より優れています。HbA1cは通常6%台までが理想的であり、7%を長期に渡って超えていると、合併症が発症するおそれがあります。

 ここまで読んで下さった方は、糖尿病の怖さを理解していただけたと思いますし、なかには既に糖尿病を患っていて、こわくなってしまった方もいると思われます。しかし、先ほど述べさせていただいたように、合併症はすぐに発症するわけではないので、今まで異常のなかった方は、定期的健康診断を受けられ、不幸にも糖尿病と診断された方は、内科で糖尿病の治療を受け、眼科にて眼底検査を定期的に受けられることをお勧めいたします。

正常眼底
神経線維が通る視神経乳頭と、物を見る要となる中心窩(黄斑部)が綺麗に写っています。



糖尿病網膜症
硝子体出血が認められ、病的で異常な血管である新生血管が多数認められます。新生血管は、網膜の血のめぐりが悪いために形成されますが、病的な血管のため、非常にもろく、たびたび出血を繰り返し、その際に線維組織が形成されます。これが網膜を引っ張るために、網膜に穴を開けたり、網膜剥離をおこして失明にいたります。また、新生血管が原因で眼圧が上昇する緑内障を合併することがあり、激しい頭痛を伴うこともあります。